こうして私は、やっと下田の地で健康を取り戻した。かと思った。いやぁやっぱり環境の良いところに来れば、私も普通の人並みになるのだなぁ~イエイイイエイ。
しかし5月に入ると、体調はまた不気味に迷走し始める。ん? あれ? 何だこれ?? というようなことがじわりじわりと増えてくる。
眠れない。
または眠り過ぎる。
「眠り」は、私の場合自分の体調を判断する、一種のバロメーターだった。何らかの化学物質に反応していればてきめんに眠れなくなり、その何かを取り除けばスッと眠れるようになる。
また眠り過ぎるというのも、ちょっと問題だった。眠っても眠ってもなお眠いというときは、やはり何かに反応している。特に私は農薬、ことに除草剤に曝露すると、急激に眠くなる傾向があった。立ってられない位、ガクーンと眠くなるのだ。
このアパートに移って約半月、そんな「眠り」のアンバランスが生じてきていた。何か、ヘンだった。
そうこうしているうち、別の過敏反応も増えてくる。食品に対する反応、水に対する反応、においに対する反応。バスに乗ると車内は何かがキツく、手にはまたいつの間にか湿疹が出来ていた。何だ、何だ何だこれは?何が起きているんだ?
妙な、ニオイがする・・・。
5月下旬。居間の部屋にいると妙なニオイがして、鼻に付くようになった。甘ったるい、古い化粧品のような、学生の頃演劇部で使っていたメイク道具のドーランのような、甘く油っぽいニオイ。それはあきらかに、キッチンの板の間よりこっちの居間の方がキツく臭う。ムカムカして、気持ち悪い。少し頭痛もする。
何だこのニオイ…どっからきてるんだろう…?
恐る恐る、あちこちのニオイを嗅いでみる。すると押し入れの中と、板に敷いたじゅうたんから、強くにおってくる。
この居間には、家から持ってきたじゅうたんを敷いていた。もとは畳敷きだったのだが、畳に反応するCS患者が多いというので、父が頼んで撤去してもらっていた。だからじゅうたんの下は、ベニア板剥き出し。
ともかく急きょ、寝床をキッチンの板の間の方へ移す。ニオイがきつくてとても眠れそうにない。

その晩は何とか眠れた。が、朝起きてみると身体はバリバリ。全身は固く強張り、関節は上手く動かず、何というかもうぎくしゃくぎくしゃく。一晩でものすごい反応ぶりだった。そしてこの朝からもう、私は居間の方では5分といられなくなる。
5月23日の日記に、私は自分の症状をまとめてこう書いている。
『やっぱりジュータンルームはもうダメになってしまった。
入ると口が苦く、いがらっぽい。舌も少ししびれる。息苦しさ、喉の詰まり、頭もかなり痛い。多少の意識の混乱もある。集中出来ず、行動がバラバラとっちらかる。感情の暴走。イライラとうつのジェットコースター。本も読めない。目が走り字が文字跳びする』
原因は、もうあきらかだった。
床下。
床下に撒かれた白アリ駆除剤。つまり殺虫剤だ。
5月に入って気温が上昇するにつれ、揮発し、床下から立ち上って室内に流れ込んできたんだろう。畳を撤去してしまったのもちょっとまずかったか。再び日記から。
『これらの症状がもし床下に原因があるとすれば、ここ最近の過敏性の進行や体力の低下もある程度説明がつく。説明はつくが…じゃあどうしよう?』
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