「女三界に家なし」なんて言葉、知ってます? いやー、知らないですよね。もはや死語かと思うんですが。
女は、年頃になると「早くヨメに行け」と生まれた家はとっとと追い出され、嫁にいって入った家は基本夫のもので「自分の家」ではなく、そうして年老いてみればその家も息子の代となってやっぱり自分のものではない。女は、この世のどこへいっても「自分の家」というものはなく、男側にひたすら従属している、という悲しい境遇をこう言ったのだった。「女三界に家なし」。現代はさすがにここまでじゃあないと思いたいですが…(いやそうでもないかなー)
しかしこの「三界に家なし」、今はむしろ化物質過敏症にこそあてはまるのではないか? とそう思えるのだ。思えてならない。
家がない。化学物質の襲来に身体がダメージを受けることなく、安心して暮らせる「家」というものが、本当にないのだ。ホントに本当にほんとーに、ないのである。
家、といえば特にシックハウスで、つまり新築やリフォーム等で化学物質過敏症を発症した人は、より大変である。相当に過酷な境遇に陥る。
念願のマイホームを新築したりリフォームしたりしたのに、その建材や接着剤等の化学物質にヤラれCSを発症、その家には住めなくなる。
泣く泣く、そういった化学物質が少くなっている古い家や中古アパートなどに引っ越すが、過敏性を獲得してしまっているので、そちらでも何かに反応してしまう。そうして次の家、また次の家、と二軒、三軒、と渡り歩くことになる。お金はどんどんなくなる。それでも入れる家は見付からず、遂には車で山へ逃げ車中泊、なんてことに。その間も、当初のマイホームのローンは支払い続けなければならなかったりするのだから、不条理極まりない。
家がない。つまり難民になる。そう、CSは簡単に難民化する。”化学物質難民”なのだ。人の目に触れないだけで、そうやって化学物質から逃げまくって難民化している患者は、おそらくあなたの想像以上にたくさんいる。
誰だって、身体の具合が悪いときは、静かに寝ていたいじゃないですか。安静にしてゆっくり休みたい。
なのにCS患者は、それがかなわない。漂ってくる化学物質に身体がビリビリ反応し、とても休んでいるどこの話ではないのだ。
私も以前、どこをどうやっても家の中に侵入してくる車の排気ガスで、七転八倒したことがあった。家のどの部屋に逃げても、排ガス臭がして苦しい。心臓が妙な鼓動を打ち、しかもときどき止まる(‼)そのとき本当に、心からこう思った。
畳一畳分だけでもいい。きれいな空気のある空間を私に下さい!
神様―ッ‼とそう心の中で叫んだものだった。それくらい、苦しいのである。
今はたぶん、この話の「車の排気ガス」のところが、「柔軟剤の香り」に変わっている。つまり「香害」に苦しめられ、どこへ逃げても漂ってくる「香り」に七転八倒している患者が大勢いる。化学物質の種類は変わりこそすれ、その「苦しみの構造」、ありようは何一つ変わっていない。
家がない。CSには本当に、普通に暮らせる家がかないのだ。まさに「CS三界に家なし」。
その切実さを、この章では私の体験をもとにして、描いてゆきたいと思う。
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