CS三界に家がない!

9-38 エデンの国などない

一方その頃、私の両親は土地探しに奔走していた。

6月で父が定年となり、もう東京M市に住んでいる必要がなくなった。となれば父と母とて、ゴミ処理場が隣接している今の家に、わざわざ住み続ける気はない。もっと環境のいい、空気のいいところに住みたい。そういう土地を探して、CSの娘も住める安全な家を何とか建てられないか。

まずは土地探しだ。
最初に向ったのは、山口県のY市だった。父の知人の実家がそこにあって、「静かで環境もいいですよ~」と教えてもらったのだ。瀬戸内海に面した海沿いにあり、地理的にはちょっと下田に似てなくもない。よっしゃあレッツゴー!とまずそのY市に行った。

ところが現地に着くと、期待したほどには空気が良くない。Y市を中心にして内陸の方や向かいの四国の松山まで足を延ばしてみたが、やはり空気の質は今一つ。

「どうも瀬戸内海沿岸は駄目だな。海沿いに工場や石油コンビナートがあるせいか、何だか空気が重油臭いんだよ」

数日後父は、下田にいる私に電話でそう話してくれた。

ならば、と今度は高知県へ行ってみた。瀬戸内海には面しておらず、目の前は大海太平洋だ。海風が、少しの化学物質空気など吹き飛ばしてくれるだろう。

行ってみるとたしかに、空気は良かった。が、今度は条件にあう土地がない。見付からない。高知は背後に山が迫っていて、平たい土地がそもそも少ないのだった。

さらにそこに、化学物質過敏症に特有の厳しい条件が加わってくる。

①田畑や果樹園、ビニールハウスが近くにあるところはNG(農薬がくる)
②隣の家と距離が近いところもNG(合成洗剤、香料などが流れてくる)
③高圧線、ケータイ中継タワー等が近くにあるところもNG(電磁波が出ている)
④その他大きな道路(排気ガス)、工場(煙)、ゴミ焼却場や産業廃棄物処理場など化学物質の煙が発生しそうな施設の近くももちろんNG。

「あのな、そういうところは無いよ。本当に無い。お前も自分で探してみたら無いというこがよくわかる。この日本にそんな完璧な条件が揃った土地なんて、ただの一つも無い!」

また数日後、父はそう断言した。それは本当だった。どんなところでも必ず一つ、CS的にはひっかかる点が出てくる。だから問題はどの辺りで妥協するのか、なのだが、しかしまたその妥協の線をどこで引くのかも、難しい。その判断がとても難しい。

それでも高知では、不動産を介して有望そうな土地が、一か所だけ見付かった。

高台にある、300坪弱の土地。周辺に田畑や果樹園はなく、少し先にはどーんと海。風もよく吹き抜けるという。おお、理想的ではないか。

ただ問題が、一つだけあった。その土地自体が、もとはサツマイモ畑だったのだ。つまり過去に、ある程度農薬を使っている。これをさあどう考えるか。

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