9-6 記憶にない！

そんな奇ッ怪な発作が起きるようになった頃、もう一つ、ショッキングなことがあった。

あれ…？何だっけ？

本を読んでいて、急にあるところの意味がわからなくなった。それはたしか1、2ページ前で、説明がされていたはずだった。あれ？

とそう思い、1、2ページ逆上ってその箇所を探す。あった。読んであー、そうだったそうだったと思い出し、また今読んでいるところへ戻って再開する。と、また忘れている。あれ、何だったっけ…？ って今読んだばっかりじゃん！

そんなに難しい本を読んでいたわけではなかった。たしか歌舞伎関係の本(私は中学の頃から歌舞伎が好き！という変な女である)で、楽しく読んでいた。おベンキョなんかではなく趣味の読書だったのだ。

なのに駄目なのである。忘れてしまう。試しにその箇所ではなくもっと前のページを読んでみると、まったく覚えておらずほとんど初読のようだった。全然内容を、記憶していない。
愕然とした。何なんだこれはと思った。ほんの1、2ページ前に書いてあることも覚えていられない。改めて読み直しあーそうだったそうだったと思っても、次の瞬間忘れている。その間時間は一分とかかっていないはずだ。何度やってもどんなに「これ覚えていよう」と意識してみても、駄目だった。まるで黒板消しで消すように、スッと頭の中から消えてしまう。
ついに、本まで読めなくなった…

ゾッとした。そしてこのとき初めて、私は自覚した。

脳が、やられているんだ…