ところが住み続けるうち、何かじわりじわりとこたえるようになってくる。臭いもないし、車の排気ガスのようなモウモウとした感じもないのに、何かおかしい。何かもっと、細かい粒子のものが、身体の中まで、奥のずっと芯の方まで、入り込んでくる。身体の隅々にまで水が浸み渡るように浸透してくる感じがする。
そして一度入り込んでくると、なかなかそれは身体から脱けてゆかず、留まったまま少しずつあちこちをおかしくしてゆく。そうやって私の身体の根本部分、体力とか精神とか、生きてゆくための根源みたいな部分を、ガリガリと削り落としてゆく。私の身体はそうやって、あちこち削り取られてゆく。絶え間なくガリガリと。毎日、毎秒、一時も休まず。この、一見たいして悪いとも思えない空気に。
廃人になるな…たぶん。
大げさでも何でもなく、そう思った。すでに障害はもう始まっている。あとは時間の問題。どれだけ早くここから逃げられるか、という。それで決まってしまう。
何としても、たとえ野垂れ死にしても、ここからは逃げよう。絶対に逃げ出してやろう。どうせ野垂れ死にするなら、せめてもう少し空気のきれいな所で、死にたいじゃないか。
都市部で生まれ、育ち、ずっと暮らしてきた。そこに描いていた、自分の将来。仕事をして働き、出来れば結婚もして、子供も持って・・・そうやって生きてゆくものだと、ずっと思っていた。
でも、それはもういい。
すべて、ぜんぶ拭っきったのは、このときだった。
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