仕掛けられたうつ(chaptor3)

8-18 仕掛けられたうつ 最後に

あー…わかる。

その感情には、自分にも身に覚えがあった。感情というのか、そのさみしさは。

夜になると、なぜかさみしくなってくる。身の内からしんしんと、底知れない刺すようなさみしさが、込み上げてくる。

自分以外の人たちは、みんな誰かとちゃんとつながっている。けれど私だけは、誰ともつながれずたった一人、という感覚。あらゆるものから切り離され、見捨てられ、どこまでも暗い宇宙の果てのただなかに、一人ぽつんといる、というような感覚。

そんな孤独感に、ときどき襲われる。特に夜になると、エアポケットのようなそこにすとんと落ちる。さみしい。つらい。誰でもいいから、そばにいて欲しい。そう思う。

二十代の学生の頃の私だ。世田谷のアパートで一人暮らしをし、うつになっていた頃の自分。誰か、誰か助けて欲しいと、ずっとそう思っていた。

あー…わかる、と思ったのは、それから何十年も経た後に、新聞記事である記事を読んだときだった。詳しい内容は覚えていないが、こんな内容のものだった。

東北地方に住んでいた20代の女性が、うつに悩まされ、その思い苦しさをSNSで発信した。

さまざまな励ましや共感のメッセージが寄せられたが、その中に、一番自分のことを深く理解してくれると思えるものを返してくれた人がいた。

その人は、北九州の方に住んでいた。彼女は「会いたい」という気持ちを抑えられず、半ばすがるような想いで、飛行機に乗ってその人に会いに行く。

その人が男性であることは事前にわかっていた。でもそういうことにはならないんじゃないかと思っていた。彼女はただ、自分のこのさみしさを、孤独感を、共感してわかって欲しいと思っていただけなのだ。

しかしその男性のもとへ行くと、当然のように身体を求められ、最後にはレイプされた。彼女はまた、逃げるように飛行機に乗って、東北の自分の町に帰って来た。

うつは悪化し、男性に襲われたことによるPTSD(心的外傷後ストレス傷害)も発症し、精神状態は前よりさらにひどい状態になってしまった。そして今はただ、自分を責めている。

「何て私は、ばかなんだろうと思って…」

読み終わって、何ともやり切れない気持ちになった。たぶん今、こういう女性はたくさんいて、そして大体は彼女と同じような目に遭ってしまうんだろうと思う。さみしくて、どうしようもなく孤独で、誰かに一途に助けを求め、結果無惨な目に遭ってしまう。バカだねーと思う人も多いと思うが、私にはそう突っ放せない。

うつのときに陥るさみしさ、孤独感というのは、かなり強烈なものだ。きつい心情だ。先に書いたように、真っ暗闇の広い宇宙の果てのようなところに、たった一人でいる、という感覚に襲われる。そのぞっとするような“一人ぼっち”感。

それゆえ余計に人恋しさは募り、誰でもいいから誰かそばにいて、慰めて欲しいと思ってしまう。その想いの前では、常識や警戒心なんて簡単に吹っ飛んでしまう。

私もそうだったから、その感じはよくわかるのだ。私がそういう被害に遭わなかったのは、単純にあの頃はスマホもSNSも何になく、そう簡単に人と人とはつながれなかったから、に過ぎない。もし当時これらのツールがあれば、私も同じことをやり、まんまと同じ目に遭っていただろう。想像に難くない。

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