農家の人たちが、農薬の身体への影響を知らなかったはずはない。散布のとき一番近くにいて、全身に浴びるのは彼ら農家の人たちなのだ。そうして深刻な健康被害にも最っ先に襲われた。別の農家の青年はこう言う。
『「俺たちはよ、農薬っちものを、甘く見てたんだな。それが俺たちのよ、いけねえところだったんだ」
一人の農村青年が、私をじっと見詰めて言った。それが彼の無農薬方式に切り替えた理由だった。短い言葉に、万感こめられていて、私はしばらく相槌が打てなかった。
「ホリドールで、やたらと人死にが出たときに、農林省が低毒性といって奨励したのがDDTやBHCだったんだからよ。十年前の話だからな。それがいけねえと分ったと言われても、俺たちはどうすることもならねえ。甘く見てたのがいけなかったんだな」』
と言い、それに対して有吉佐和子は、
『農民が農薬を甘く見ていたのではない、農民は農薬会社と農林省に、まったく甘く見られていたのだ』
と記す。(前掲書P219~220より)
文中にあるホリドール、DDT、BHCというのはいずれも有機塩素系の殺虫剤で、極めて毒性と残留性の高い農薬だった。70年代にすべて失効し、使用禁止となったが、今でも人の体内に蓄積し、血液や尿から出てくることが、2011から2016年の環境省モニタリング調査で明らかになっている。(『地球を脅かす化学物質 発達障害やアレルギー急増の原因』木村・黒田純子著 海鳴社 2018年発行 P18~19より)
一度土や環境中に放ってしまった化学物質からは、私たちは等しく逃れることが出来ないわけである。怖しいことだ。
コメント
タリカさん、こんにちは💞💞
とうとう、現在まで名著として読み継がれる有吉佐和子の「複合汚染」まで来ましたね。有機塩素系農薬は毒性及び残留性が高く、生態系の連鎖によって多くの動植物に害を及ぼすことが、レイチェル・カーソンの「沈黙の春」でも指摘されていますね。「複合汚染」では化学物質によって死にたくなることが取り上げられていたんですね。
化学物質は身体の健康を害するだけでなく、精神症状を引き起こして自死させて殺めてしまう、本当に恐ろしい問題なんですね。田んぼでは有機塩素系農薬が使用されなくなって久しいですが、それでも田んぼの周囲の人家に住む高齢者はうつが多く、このような高齢者の入居治療施設ではオーガニックの食事を出して治療にあたっているそうです。現在では香害や農薬のネオニコチノイドが大きな問題として出てきていますが、人類が化学物質を製造使用し蔓延させて人体を含む地球環境すべてを破壊していく事実は、昔と変わらないのです。
一方、今年4月1日から障害者差別解消法が法的義務化され、行政や企業の化学物質過敏症への対応も改善される兆しが出てきています。化学物質の危険性やこの病気を世間に知ってもらう活動を、これからも共に頑張っていきましょう!!