仕掛けられたうつ(chaptor3)

8-9 農薬で人が変わったヒト

有機リン系農薬による中毒患者の治療にあたってきた、群馬県前橋市の青山医院。そこには次のような患者たちが、続々とやって来ていた。

例1 有機リン農薬慢性中毒となったおじいさん
他の病院では、ぜん息と診断されていた。咳に苦しみ、痴呆が生じ、おむつをしていた状態だったが、抗コリン剤臭化プリフィニウムと抗酸化グルタチオンの投与による治療の結果、50㏄のバイクに乗って家の買い物を引き受けるまでに回復する。

例4 寄宿学校に行っている小学生男子(12才)
帰宅した日に近くの水田の空散で曝露。有機リン農薬中毒にかかり、救急救命センターに行ったが、埒(らち)があかないので翌日来院した。救命治療が済んだ時点で、記憶障害が残っており、自分が誰でどこから帰ってきたのかも思い出せない(有機リン農薬に特徴的な記憶障害)。その後、同様の治療を行い回復した。

例51 玉村の新興住宅地に住む引きこもりの高校2年生男子
顔中アトピー、カビ、そしてヘルペス、さらに眼球運動もおかしく(有機リン農薬に特徴的な眼球運動の異常)、うつ、昼夜逆転、不安神経症となっていた。昨夜観た映画の名前が言えない。昨夜の夕食に何を食べたか忘れてしまう。治療の結果良くなり、大検に受かって合格した。

(『環境ホルモン 第四号 特集“環境病“』所収 「農薬曝露の影響-臨床例から」青山美子P69~71より)

この高2男子の症例など、まるでかつての自分を見るかのよう。アレルギー(アトピー)の悪化、うつ、昼夜逆転、不安、そして引き込もりと。記憶障害はさすがになかったが、他は何から何まで同じだ。うーん、これはまるで、世田谷アパート時代の私、じゃないか。

ということは…。

と今になって逆に、あの頃の私はやはり“典型的な有機リン農薬慢性中毒“の状態にあったんだな、と改めて思う。あの押し入れでプンプン臭っていた「バルサン」が、原因だったんだろうたぶん。

青山医院の症例には他にも、始終イライラや不安に襲われ、食事の支度も掃除も、簡単な片付けすらできなくなった48歳女性の例や、農薬の空中散布が激しくなる7月になると必ず1ヶ月半不登校になるという、中学生の女の子の症例等もあった。いずれも有機リン系農薬が原因の症状だった。(前掲書P71より)

驚くのは、その精神状態の多さである。うつ、イライラ、不安。記憶障害や認知症の症状。引き込もりや不登校といった、一見農薬とは何ら関係なさそうな行動の障害までそうなのだ。いかに農薬が脳に深く影響を及ぼしているか。「片付けられない」までそうだとは、ちょっとびっくりではないか。

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