「わかるわかる。苦しいから眠るどこじゃないよね。寝られないよ。実は私も、今半分外で寝ているの。軒下で」
あっけらかんとそう言われ、一瞬耳を疑った。「えっ、軒下?軒下ってあの…」軒下の意味までちょっと見失う。軒下ってあの、家の屋根の守備範囲内の、あの狭い空間のことだろうか?

「そう、軒下。そこにパイプ組んで板敷いて、仮設の寝るとこ作ったのよ。夜は蚊屋吊ってる」
電話の向こうは、ちょうどその頃知り合った、岡山に住むCS患者の女性だった。増田のり子さん(仮名)という、私より十歳程上の人。話してみると大変に気さくで、妙にウマがあい、このところよく電話で話していた。「いやぁ、アパートの居間で寝られなくなっちゃってー」と半ばヤケで言ってみたら、返ってきたのが冒頭の言葉だった。軒下で、寝ている。何と。
「え、その借りた家の中では、寝られないんですか?」
「春頃までは大丈夫だったんだけどねー。気温と湿度が上がって、何だかカビ? カビが出てきちゃったらしい。苦しくて今は全然駄目」
増田さんは、シックハウスでCSを発症した。そのシックハウス新築家屋にはもちろん住めず、各地を点々とした後、やっとのことで山奥にある古い家を借りることが出来た。過敏症状が強い増田さんにとっては、「家の内に入れる」ということ自体珍しく、奇跡的に見付かった家だったのだが・・・。
「また家を探すのはもう無理だし・・・何とかここで頑張るしかない」
「いやでも、5月とはいえ夜は寒いんじゃ・・・」
「寒いよー。使える布団も数がないし。仕方ない、下の娘と毎晩抱き合って寝ているよ。人間あんか、ハハハ。でもそれでも、娘も『家のなかで寝る』とは言わないよ。家の中じゃ絶対に眠れないから」
こんな話が、CSの世界では全然珍しくないのだった。これは今この瞬間もそうだ。多くの愚者が、安全に寝られる場所を得られず、ある人は殺虫剤に、ある人は近所から流れてくる洗濯洗剤のにおい―香害―に、ある人は煙草の煙に、それら化学物質の火に身をじりじりと焼かれるようにしながら、呼吸をしている。一息、また一息。「ここの空気は吸いたくない」と思いながらも。
5月24日の日記に、私はこう書いている。
「全国的に雨。岡山の方は夕方から雷雨だという。
こんな天候でも、増田さんとその娘さんは、軒下にいるのだろうか。今晩も寝るのだろうか。そう思うとまだしも屋根の下にいる自分が、すまないような気分になってくる・・・。
しかしこの文明社会で、家に入ることも出来ず軒下にいるしかない人、車で山に逃げて点々とする人、どこも駄目で次々引っ越さねばならない人が、いるということ。
なんということだろうか。
これは何なんだろう?
何が文明か。何が進歩か。本当にやり場のない怒りが込み上げてくる。一体これはどういう世の中? これが経済大国か?」
叩きつけるように、そう書いている。
コメント
タリカさん、ブログ管理人さん、こんにちは💞カナリアネットワーク全国が移香被害の実態アンケートへの協力を呼び掛けています。以下当会ウェブからの引用です。
移香の被害の実態アンケートにご協力ください
2025.06.23
日本石鹸洗剤工業会への再度の質問のために、アンケートにご協力ください。
3回目の回答を受けて、CANは日本石鹸洗剤工業会に対し非使用者の物に香りが移ること(移香)で起きている被害の実態を報告したいと考えます。
20250619 日本石鹸洗剤工業会からの回答
移香を経験したことのある方なら、どなたでもご回答いただける簡単なアンケートです。
一人でも多くの方の声を集めたいです。
ご回答、そして拡散にご協力ください。
締切は、7/18(金)とさせていただきます。よろしくお願いいたします。
移香問い合わせアンケート→ https://forms.gle/Pqn7566r2hgNmyQT9
これまでの日本石鹸洗剤工業会への質問・回答は、CAN公開文書ページにあります
https://canary-network.org/koukaibunsho/
※カナリアネットワーク全国のウェブサイト
https://canary-network.org/news/ikouchousa202506/
全国で香害が広がっており、多くの国民が困っているのに、メーカー、日本石鹸洗剤工業会はまったく対応しようとしません。
香害被害者の皆さん、声を上げ続けよう!!