北里病院・魅惑のクリーンルーム

3-12 追い詰められた明るさ

どっか、逃げらんないんですか?

と思わず私は訊く。

本当逃げたい!逃げたいですよもう!毎日毎日苦しくて・・・地獄で。でも主人は全然平気な人だし、子供の保育園もあるし・・・。私以外は今のところみんな大丈夫だから、我慢するしかないんですよね・・・本当は空気と水の良い、どっか田舎に引っ越したいですよ。毎日そう思ってるんですけど

わかります。本当そうですよ。人間に必要なのは結局、きれいな空気と水なんだ、ってすごく思う。私も田舎行って住みたいなー。でも田舎だと、働き口がねー・・・

マスクの女性がそう言った。

話してみるとどの人も、かなり過酷な状況下にいた。逃げたくても逃げられない、さまざまな事情が絡まりあい、おいそれとは脱け出せない、そんな化学物質環境に。

けれどどの人も、不思議と口調は明るかった。カラッとしていた。どろどろと悲愴感漂わせているような人は、いない。皆冷静に、自分の置かれている状況をしっかりと見据えている。この不思議な落ち着きは、どこからくるんだろう・・・?

また何より、どの人も今こんなふうに、患者同士何の注釈も説明も、そして遠慮もなしに話が出来ることを、心から楽しんでいる気がした。たぶんその喜びの方が勝るのだ。言えばスッと相手に伝わることが、嬉しくて堪らない。私もそうだった。誰かが「わかる」と言ってくれるだけで、こんなにも心が軽くなるものかと思った。嬉しくて、ちょっと涙目になってしまったほど。

※これは2,000年当時の話です。現在北里病院では、これらの治療は行っていません

第3章をイッキ読み
第3章の全文掲載完了に伴い、日々のブログ記事を1ページにまとめたイッキ読みのページをご用意させていただきました。 長文となりますがご興味をいただけましたら、お読みいただけましたら幸いです。
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奥野井タリカ 私の化学物質過敏症(CS)

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