話はぐるりと大きく廻って、また北里病院クリーンルームに戻ってくる。
つまり、そういうことだったのだ。ここがこれ程徹底したクリーンルームにしてある理由は、何も患者に負担をかけないため、とかじゃなかったのだ。(いや私はてっきり…)
「離脱」のためである。身体を離脱状態にして、マスキングを外させるため。その状態にして初めて、化学物質への反応が表に出てくる。中枢神経と自律神経の異常を、他覚的データとして測定することが可能になるのである。それがつまり、私が「化学物質過敏症患者である」という、確たる証拠になるのだ。
これが食物アレルギーならば、その食品を摂らなければ「離別」は出来る。だからある意味簡単だ。しかし相手が「空気中の化学物質」である場合は、まず取り除くのが容易ではなく、だからこれ程大がかりな設備が必要になってしまうのだった。うーん、大変。
同時にまた、こうも言える。こんなにも配慮に配慮を重ねて、「クリーンな空気」を人工的に作り出さねば「離脱」に至れないほど、我々の今いるこの世界の空気は、化学物質で汚染されている、ということだ。つまり私たちは、もしかしたら日常的に、つねにマスキングされている状態、にあるのかもしれない。
さて、マスキングは外れた。私たちの身体の奥深くに隠れていた、それまでは仮面をかぶり素知らぬフリをしていた、本当の反応性が表に出てくる。やっとその顔が現れる。このクリーンルームによって、ようやくあぶり出されてくるものだ。
私たちの身体は、化学物質によって何をされているのか。どこをどう害されているのか。
何が、狂わされているのか。ということが。
<<参考文献>>
- 『科学物質過敏症対策[専門医・スタッフからのアドバイス]』水城まさみ 小暮英朗 乳井美和子著 宮田幹夫監修 緑風出版 2020年11月
- 『化学物質過敏症BOOK 症状・原因・しくみ・診断・治療』 北里大学名誉教授 宮田幹夫著 AEHF JAPAN 2007年10月
- 『ランドルフ博士の新しいアレルギー根絶法』セロン・G・ランドルフ ラルフ・W・モス著 桐書房 1994年10月
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