また奇妙なのは、その「異常な空気」、汚染空気の存在が、だんだん手に取るようにわかる、感じられるようになってきたことだった。
たとえば、強い南風が吹くと、その汚染空気が自宅の内まで、どんどん侵入してくるのがわかる。感じられる。すると咳や喉の痛みが、それに呼応するように強くなる。
逆に、病院へ行くためバスに乗り、井草地区から遠ざかると、咳も喉の痛みも引いてゆく。
まるで空気が、見えるかのようだった。日によって時間によって、刻々と変わる空気の状況。その空気の中に混じる未知の何か、ひどく凶悪な汚染物質の存在が、はっきりと手に取るようにわかる。そしてそれが空気中に増えてくると、判で押したように症状が酷くなるのだ。
それは、津谷裕子ばかりではなかった。星谷昇子もまた、まるで同じ状態になっていた。
星谷昇子の住むマンションは、杉並中継所から約100メートルのところに建っていた。3階のその星谷の部屋は、中継所にある高さ13メートルの黒い排気塔とほぼ同じ高さで、排気口はベランダの窓から、わずかに見下ろすくらいのところにあった。星谷は、雨の日以外は朝も夜も、窓を開け放って生活していた。
杉並中継所稼働直後から、やはり不可解な症状が相次ぐようになる。
顔の小鼻の周囲に、膿を持った腫れ物が出来てなかなか治らない。喉がおかしく、食べ物が上手く飲み込めなくなり、詰まらせてあわや窒息しかけたこともあった。
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