そうして休憩のために立ち寄ったのが、この雪ノ原だった。実際は牧場で、牧草地にも実は除草剤を使うそうなのだが、このときは地表が雪に覆われていたから、それも出てこなかった。
素晴らしい空気だった。吸っても吸っても、喉にも肺にもどこにも引っかかることがない。まるで浸みとおるようにすっと入ってくる。どこまでも澄んだ、甘い空気。全身の細胞、そのすみずみまでが、この空気を喜び歓迎しているようだった。いやほとんど歓喜。気持ちいい!!の一言だった。うつなんてものは何処か遠い彼方へ、吹き飛んでしまっていた。
そんな、まるで野に放たれた犬ころのように喜ぶ私を見て、父と母はただ驚いていた。けれど娘のその変化を目の当りにして、もしかしてこれは、と思い始めていた。娘が自分たちに何度も、再三に渡って言っていたことは、もしや本当のことなのかもしれない。彼女の思い込みなどではなかったのかもしれない。
変化の前後で変わっていたのは、空気だけだった。後には何も、何一つ変わっていない。私が置かれている状況、抱えている問題、この時点では何一つ解決してはいなかった。だから突然うつが消えたのは、心理的なことが原因ではない。心理的ストレス要因が減ったからとかそういう理由ではない。それでは説明がつかない。
空気だ。
変わったのは空気。空気の質だ。ごみ焼却場周辺の空気から、何もは入っていないきれいな空気へ。
その瞬間、私たちは深く納得した。
このうつは、私のうつじゃないのだ。
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