仕掛けられたうつ(chaptor2)

7-10 問われない”うつの原因”

注意! 本章には、かなり強いうつ、自殺衝動の描写があります。フラッシュバックやPTSD等を懸念される方は、どうぞ体調を優先なさってくださいますようお願い申し上げます。

「化学物質でうつになる」

Sさんのその一言は、衝撃的だった。これまで何年もうつに苦しみ、その原因だ原因だと思っていたことが、一瞬で覆されてしまったのだ。化学物質でうつになるなら、なるほどいくら「明るく考えよう」「ポジティブになろう」と努めたって駄目なわけである。化学物質の影響で、またひゅううとうつになってしまうのだから。

化学物質でうつになることに私がこうも気付けず、また知ったときさええっ本当に?と意外に思えたのは、それだけ私に「うつイコール心理的なもの(心因性)」という考えが根強くあったことを示している。そしてそれは私に限らず、大多数の人がそうではないだろうか。

うつ、ときけばそれは心因性-悩みやストレスによるもの-とだけ思っていないだろうか?

うつの「原因」というものを、私たちは実はあまり深く考えていない。というのも悩みやストレスというものは誰にでもあり、うつになった後で自分で「あの悩みが」「あのストレスが」原因だと、いくらでもあと付け可能であるからだ。そしてそれで、何となく納得してしまう。

また精神医療の場でも、実はうつの「原因」というものはほとんど重要視されていない。

たとえばあなたが、うつになって医療機関にかかったとする。精神科とか心療内科などだ。そこではたぶん、医師の先生はうつになった「原因」についてあまり触れてこないはず。うつの症状が出ているからあなたはうつ病です、と診断され、薬による治療が始まる、というのが大体のパターンだ。

もっと話を聞いてくれると思ったのに・・・!

とがっかりした、とはよく聞く話だ。

しかしそれは、医師の先生が冷たいとか3分間診察だからというのではなく(まぁそれもあるかもしれないが)、精神疾患の「原因」は問わない、という医学界の基本方針、みたいなものがあるためなのだ。これは日本だけでなく、多くの国でそうなっている。

なぜなら、日本の精神医学界は、米国精神医学学会が策定した診断マニュアル(DSM)に則って診断しているからだ。このDSMでは、患者の診断に「操作的診断」という立場を取っていて、それは「これこれこういう症状の項目にあてはまるならその人はうつ病です」というもの。出ている症状で診断を下すのだ。「原因」は問わない。まぁある意味、超合理的なやり方、ではあるのだが。

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