仕掛けられたうつ(chaptor2)

7-9 舞い散る”化学物質”

注意! 本章には、かなり強いうつ、自殺衝動の描写があります。フラッシュバックやPTSD等を懸念される方は、どうぞ体調を優先なさってくださいますようお願い申し上げます。

とにかくそこからは必死だった。必死の網渡りのような会話になった。

何とか言葉をひねり出した。「・・・」と失語になりそうな頭をぎゅうぎゅうと絞って、揮身の力で言葉を出す。それを超高速で、自分としては物凄いフル回転でこなさなければならない。でないと間に合わないのだ。焦る。まるで自転車操業だ。漕いで漕いで猛烈な勢いでペダルを漕がなければ、会話が成立しない。あぁ、間に合わない!

会話とは何と大変なことをやっているんだろう、痛切にそう思った。さっきまでは完全に無意識に会話出来ていたのに、今やガタガタのボロボロに。それでも友達にはそんな自分を気付かれたくなくて、表向きは平静を保っていた。いや気付いていたかもしれないけど。

異変は、しかしそれだけでは終わらなかった。

私たちは窓際の席に座っていたので、すぐ脇にカーテンが掛かっていた。ピンクの派出な花柄カーテン。そのカーテンから突如、砂粒のような、細かいミクロの粒子がじわ~と浮かび上がり私の方へ飛んで来たのだ。のように感じた。そして次々と顔や首などの肌にくっ付いてくる。ザラっとした感触がする。

!?  !? !?

もはや言葉にもならない。その感じはまるで、自分が磁石の石で、砂鉄の砂をどんどん吸い寄せ吸着している、みたいな奇ッ怪な感じだった。しかもこのミクロ粒子が付着すると、その部分の肌や筋肉が強張ってきて、最後にはがちがちに硬直してしまう。そしてそれはカーテンだけでなく、同じことを床のカーペットや目の前のテーブルの裏側からも感じ始める。

気付けばもう大変な状況と化していた。会話は自転車操業でしどろもどろ、身体は砂鉄びっしり吸着状態で硬直。な、泣く・・・

ファミレスから外に出たときは、心底ほっとした。しかし同時に、もはや私はファミレスにすら入れない身になったのだと思うと、足元の底が抜けたような気がした。

――というようなことが、「洗たくロープであわや自殺」の前の日に起きていたのだった。そのことをSさんに話すと、

 

・・・カーテンには難燃剤が入っているわね

難燃剤・・・?

そう。火事とかで燃えにくいように、薬剤が使われてる。有機リンエステルっていう物質。これ有機リン系農薬に極めて近い化学物質。カーペットには防虫剤が使われてるし、テーブルは合板製だからホルムアルデヒド類が出てくる。どれも化学物質過敏症患者は普通に反応しておかしくない物質ね

そう言ってSさんは一呼吸置き、

ねぇ、あなたたしか、団地の農薬散布で発症したんだったわよね?

そうです・・・

あなたにあてはまるかはわからないけど、農薬の中毒にはうつや自殺者が多いの。農薬を吸い込むと死にたくなるみたい。有吉佐和子が書いた『複合汚染』って知ってる? 読めたら読んでごらんなさい。農薬による自殺者の、とんでもない統計表が出てるから

そしてSさんは、少し声をやわらげて言ってくれた。

だからね、死んじゃだめよ。洗たくロープなんかで自殺しちゃ、だめ

コメント

 
タイトルとURLをコピーしました