うつの原因は問わない。うつの症状が出ていればアナタはうつ病-という考え方。しかしかつては、うつの原因について盛んに議論されている時代があった。
『うつ病の真実』 野村総一郎著(日本評論社2008年発行)という本がある。うつの歴史、古代から現代に至るまでのうつの捉え方やその治療法の変遷などが書かれて、これがけっこう面白い。
古代の時代から、うつはあった。本に依れば、 その頃うつは「メランコリー」とよばれ、ギリシャの大哲学者アリストテレスはその原因を「黒胆汁」だと考えていた。黒胆汁(こくたんじゅう)・・・?
当時、人間の体内には4つの体液が流れていると考えられ、赤は血液、白は粘液やリンパ液、黄は胆汁、そして黒は黒胆汁。それでうつはこの黒胆汁なるものが優勢、活発化することで起こると考えていたのだ。(ちなみにがんは、黒胆汁が“沸き立たない”状態でなると思われていた。)
前の3つはあるが、4番目の黒胆汁はむろん存在しない。が、けっこうこの黒胆汁説は長く続き、18世紀未頃になってやっと解剖医などが、「・・・どうもないっぽい」となってやっと否定された。でも個人的には身体の内を、黒い体液がぐるぐる盛んに巡るとうつになるというこの説は、架空にしてもあながち間違っていないかも、とつい言いたくなる。実感に近いのだ。
近代に入り、「精神医学の父」であるクレペリンという人が登場する。このクレペリンは精神疾患をより化学的に、原因別に分類する方法を提唱した。
そうして出て来たのが。「内因性うつ」と「心因性うつ」という考え方である。
「内因性うつ」は、『脳の内部に精神障害になるような原因がもともとある』というもので、これは遺伝的といわんより『伝統的な体質論に近い考え』であるという。(前掲書P147より)対して「心因性うつ」は、いわゆる心理的なこと、悩みやストレスが原因で起こるうつのことだ。
しかし現実には、うつの患者をそうくっきりと分けることは難しい。現場の医師も判断しかねることが多かった。そもそも「内因性」「心因性」どちらの要素もある、混ざっているグレーゾーンの患者の方がずっと多い。
そんなくっきり分けらんないよ!
という声が多く上がるようになった。
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