病名を知るということ

2-7 失った部屋

とにかく、また実家へ帰ることにした。何がどうなってるのかわからないが、直勘的に、これ以上ここにいてはいけない、と思ったのだ。何を置いてもすぐ、逃げなければ、と。

大きな旅行バックに、とりあえず着る服と、教科書やノート類と、あとは日記と数冊の本を入れた。最低限大事な物だけ持ち、後はもう、火事で燃えてしまってもいい、と思った。

たった2週間過ごしただけで、心身をずたぼろにしたこの部屋には、もう二度と戻ってこられないだろう。そう思った。もはや私は、この部屋でもう一晩過ごすだけの体力も、残っていないと感じた。ここは、おかしい。何かがヘンなのだ。水か。空気か。家(アパート)自体か。それともその全部なのか。

しかしそれでも、このアパートの部屋に対する愛着、のようなものは、依然として残っていた。

初めて、親元を離れて一人暮らしをした、この部屋。サークルの同輩や後輩を呼んで、一緒に鍋をつつき夜っぴで飲んだりすることもしばしば。また一晩中、大切な友人と深刻な話をしたこともあった。その自由さと、解放感。私はこの部屋で、初めて濃密な”私”というものを、手に入れることが出来たような気がする。

一人暮らしは、私は楽しかった。決してつらいものではなかったのだ。つらかったのは、身体がどんどんヘンになってくる、そのことの方だった。

もう二度と、戻れないだろう。アパートの鍵を閉めたとき、そう思った。何か、大切なものが、私の手から離れていったのだ。

第2章をイッキ読み

第2章の全文掲載完了に伴い、日々のブログ記事を1ページにまとめたイッキ読みのページをご用意させていただきました。
長文となりますがご興味をいただけましたら、お読みいただけましたら幸いです。

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奥野井タリカ 私の化学物質過敏症(CS)

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