仕掛けられたうつ(chaptor1)

6-1 雪の野原

私のうつは、化学物質過敏症以前から始まっていた。気分が重く、だるく、人に会いたくない。
外にも出たくなかった。
そしてときに、激しい自殺願望がつのる。
でも不思議なのだった。
なぜこんなにうつになるのか、その原因が
何も見当たらないのだ。

見渡す限り、一面真っ白だった。雪だ。雪ノ原。降った雪にすっぽりと覆われた大地が、どこまでも続いている。斜面のあの向こうまで、ずっと。

晴れている。快晴だった。空には雲一つなく、抜けるように青く澄んだ空が、頭の上に広がっていた。そこから降りそそぐ日の光で、雪の一粒一粒がきらきらと光り、透き通っている。

突然、衝動が湧いてきた。腹の底から、むくむくと。私はおもむろに、思いきり下股でその雪ノ原に足を踏み入れた。ざくっと音がして、雪はわずかに沈んだ。スタンプのような自分の足形がそこに出来ていた。もう一歩逆の足を入れると、またざくっと音を立て雪は沈み込む。ざくっ、もう一歩。ざくっ、もう一歩。ざくっ、ざくっざくっざくっ・・・。

そんなことが、わけもなく楽しかった。沈み込んでゆく雪の感触と、そのリズム。どんどん出来て連ってゆく自分の足のスタンプ。まるで子どもに還ったように、無性に楽しかった。身体の底から楽しい。

あの斜面の丘の向こうまで、ずっと歩いて行きたくなった。ざくざくとこうやって、音を立てて歩きながら。どこまでもどこまでも歩いて行きたい。

わくわくしていた。そう今私はわくわくしていた。下腹の奥がちょっとかゆいようなこそばいような、それがまた楽しくて嬉しいようなあの独特の感じ。こんなわくわく感、久しく忘れていた。もう何年もずっと、こんな気持ちは味わったことがなかった。

©SORAIRO

そう、これだった、と私は思い出す。これ、この感覚。わくわく感と共に私は、かつての自分を思い出し始める。私はもともと、性来こういう人間だった、という感覚。雪ノ原を見たら足を踏み入れ、どこまでも歩いて行っちゃうような性格。それほど社交的ではないものの、ある時点からパッとスタートダッシュを切るような性格。悲観的か楽観的かと問われたら、本来は楽観的な方だった。

第6章をイッキ読み
第6章の全文掲載完了に伴い、日々のブログ記事を1ページにまとめたイッキ読みのページをご用意させていただきました。 長文となりますがご興味をいただけましたら、お読みいただけましたら幸いです。
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奥野井タリカ 私の化学物質過敏症(CS)

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