だがしかし。7日目に遂に限界が来た。理性が恐怖に打ち勝った、といわんより、日々積み重なってゆく延滞料金の恐怖の方が外に出る怖さより勝った、という方がたぶん正しい。私は猛然と返却ビデオと財布を持ち、外に出た。そして自転車に乗り、レンタルビデオ店へとひた走った。
何ともなかった。全然まったく、何ともない。拍子抜けするほどに。
街を道行く人たちは、私などに目もくれずそれぞれ仕事や学校、バイトや何かに励んでいた。
誰一人として私に、避難の目など向けてこなかった。だから私も何ら傷付くことはない。何一つ怖くない。まあせいぜいがビデオ店のレジのお兄さんが、
「お会計…(えっ!?と目を丸くして)えーと延滞料金が4200円(か6300円)になりますが…」
と大変に驚かれたとき、少々バツが悪かったくらいのものだった。恥ずかしくはあったが、でもそれで傷付きはしにない。
帰りの自転車を漕ぎながら、私は半ばぽかんとしていた。何だこれ?何なんだこれは?何だったんだアレは?そんな言葉がしきりに浮かんでくる。久しぶりに出た外の、吹く風は気持ちよく、日の光は明るく、街のようすはおだやかでのんびりとしていた。きれいだなぁと思った。私が一人アパートに籠もり、悶々と想像していたより遥かに、外の世界はやさしかったのだ。
じゃあアレは何だったんだ…?
と思った。私がアパートのあの部屋にいる間中、ずっと感じていたあの恐怖は。外の世界への怖さは。なぜあれほどまでに私は、外を、外の人を怖がっていたんだろう。
あの部屋で。あの部屋のなかで。あの部屋なかにいる私の頭のなかで。
コメント
タリカさんの第6章に記載された深刻な症状を知り、夫婦揃って驚きました。鬱は危険と隣り合せです。しかし、よく持ちこらえましたね。押入れのバルサン原因説については同感です。含まれる毒物は光りにより分解して非毒化する性質がありますから、発見場所の押入れの中で分解せずに就寝中のタリカさんの頭部に襲いかかったのでしょう。極めて危険な事態でしたか、これに持ちこたえたタリカさんは凄い精神力の持ち主ですね。夫婦でタリカさんの忍耐力に感激しています。私は脳梗塞による左側の腕と脚の麻痺のリハビリに専念してますが、お互いに困難にめげず、希望を持って前進しましょう。頑張ろうタリカさん。