北里病院へ、行った話<奇妙な診察編>

5-25 “こすれあう”と出てくる!

その発生メカニズムも、津谷はすでにわかっていた。

イソシアネート類は、プラスチックから出てくる。プラスチックの、ウレタン系のものから発生するのだ。ウレタンが、何かしらの衝撃とかこすれにあい、そこに熱や水分が加わったりして化学構造に変化が生じると、かなり簡単に発生する。

杉並中継所の場合は、こうだった。

運び込まれたプラスチックごみは、地下施設で圧縮、プレスされる。このときごみにかかる力は、手の平サイズで約700キロ。強い力が、一気にプラごみにかけられることになる。

それにより、プラごみ同士は強力にこすれ合う。そしてこすれ合うことで、摩擦熱が生じる。この摩擦熱は、局所的にはかなりの高温度になり、さらに静電気やプラズマも生じて、すると固体としては比較的安定を保っていたウレタン系プラスチックが、その分子結合を解く。分解され、成分がバラバラになる。

そのとき、イソシアネートが発生して出てくるのである。

キーはだから、「摩擦」であった。 押し潰されたプラスチックごみに、摩擦が生じ、その熱でウレタンが分解され、イソシアネートが出てくる。焼却しているわけでもない杉並中継所から、このイソシアネート類をはじめプラスチック由来の数々の化学物質が出て来たのは、このためだったのだ。

この発生メカニズムは、津谷だからこそ見抜けたことだった。実は津谷は、この「摩擦」のスペシャリストだったのだ。応用物理学者として長年追いかけてきた研究テーマが、摩擦(トライボロジー)だったのである。

そこにもまた、津谷は杉並病との奇縁、運命的なものを感じずにはいられなかった。

杉並病の原因は、被害患者のなかにまさに津谷裕子がいたからこそ、行政の圧力で隠蔽されることはなく、解明することが出来たのである。

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