さて、有吉佐和子『複合汚染』の紹介を長々続けてしまったが(面白いのでつい…)そろそろ問題の表に話を移そう。「化学物質のせいで死にたくなるのよ」と教えてくれたSさんが、「とんでもない表」と評していたものだ。
その表は、パラチオン(商品名ホリドール)という農薬の、農薬中毒者数を統計したものである。次のようになっている。 (昭和37年まで続く。前掲書P220より)
中毒者(人) | 事故死(人) | 自殺(人) | |
昭和28年 | 1564 | 70 | 121 |
昭和29年 | 1887 | 70 | 237 |
昭和30年 | 899 | 48 | 462 |
昭和31年 | 706 | 86 | 900 |
昭和32年 | 570 | 29 | 519 |
自殺者の数が異様に多いことが、この表からも見て取れる。
『農薬毒性の事典 第3版』の「パラチオン」の項にも、
農薬用使用による死者はパラチオンが指定劇物に指定された翌56年(注:西暦)に最大86人を記録し、その後減少傾向を示した。しかし、自殺者数は、年間237~900人の年が13年も続いた
『農薬毒性の事典 第3版』(植村振作・川村宏・辻万千子著 三省堂 2006年発行) P355~356
と指摘されている。そして驚いたことに、この農薬が失効となった72年から20年以上経った96~99年にかけても、パラチオンで自殺した人が18人いたという。パラチオンの何が、こんなにも人の自殺を誘因するのだろうか。何とも薄気味悪い。
『複合汚染』のなかで著者の有吉佐和子も、
これを見ると自殺者が圧倒的に多いことに気がつかれるだろう。都会ならノイローゼ自殺が多い理由はいくらでも数え上げることができるが、広々とした大自然に抱かれて、土に親しんでいるお百姓さんが、どうしてこんなに自殺するのか
と驚いている。まさにそうだ、昭和31年の、年間900人にも上る自殺者数は、尋常ではない。心理的要因だけで、農村がこれほどの人が自殺するとは、ちょっと考えにくい。何かしらの生理的な、つまり身体的な要因があると考えた方が、妥当なのではないか?
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